あかりのゆるブロ!

あかりが感じた事をあれこれ書くよっ!

「アイツよりかはイケてる……」って思ってた時期があかりにもありました

味噌ラーメン

今日はランチのワンシーンを紹介しちゃうよ。

おい! こら! ネタが無いからって飯食うだけのエピソードなんか紹介すんな!

って思うかな???

でも、そう言わずちょっと付き合って欲しいな!
これまでとは趣向を変えて小説風に書いてみるからぜひ最後まで読んでね!

それでは元気よく行ってみよう!

全力で昭和感を押し出している中華料理屋

5月8日(水)15時過ぎ。あかりは昼食をとるためにオフィスを後にした。

あかりの昼は遅い。なにせ就業時間が10時で、かつ席についてPCを立ち上げつつ朝食のおにぎりを食べるのが日課になっているのだ。当然、世間一般的な昼休み時刻である12時~13時の間にお腹が空く事は無い。

 

一般的な企業に勤めている知人などにこの話をすると「おやつの時間に昼食とか生活サイクルとしてどうなん?w」みたいに揶揄されるのだが、あかり自身はこの事を特にネガティブに捉えてはいない。

 

――むしろこの時間になると、どのお店も空いているから楽なんだよ。

 

行列とは無縁のランチライフを満喫しているからである。

 

「さてと、今日はどこのお店に行こうかな」

オフィスを出て馴染みの店が多い方面に足を向けつつあかりは考える。

いつも一緒に昼食に行っている同僚へは今日は断りを入れた。

先日から続いている腰痛のせいで遠出が難しいからだ。

同僚と昼食に出る時は会社のルールなどクソくらえで二時間近く休憩を取り、片道1キロ以上はありそうな距離を歩く。そこに旨い店があるからだ。サラリーマンの唯一の癒しである昼食に妥協なんてしない。たとえどんなに遠くても満足いく昼食をとるために歩くのだ。まるでそこで最愛の恋人が待っているかのように。

 

ただ、今日は歩けない。長距離を歩こうものなら腰が砕け散り救急車のご厄介になる可能性すらあるからだ。この状況は例えるならばドラクエの毒状態で歩いているのに似ている。仲間は全滅、毒消し草も無いしルーラを使うMPもない。助かるには街に戻るしかないが街に戻るまで体力が持つかわからない。そんな緊張感あふれる昼食にあかりは出ているのだ。

 

あかりは諸々の条件を考え、オフィスに一番近い中華料理屋『こけし』に行く事に決めた。味はお世辞にもおいしいとは言えないし、店内は常時喫煙可能だし、店員はタメ口だし、テーブルも拭きむらがあったりして汚い。それに飲食店の癖にお手拭はおろかティッシュすら置いていないのだ。昭和からワープして来たかのような無骨な店である。まあ、その分落ち着けるというのもあるのだが……。

 

「こけしの味噌ラーメンだったら50点は取れるしね」

 

注文をする際は他人のオーダーを気にしがち

店内に着くと時間の有利もあってか客は一人もいなかった。

厳密に言うと1名いたのだが、丁度会計をしている最中だったので間もなく貸切状態になるだろう。あかりは悠々と四人掛けの席に腰を下ろした。

 

「腰が痛いから広い席は助かるね」

 

すかさず店員が水を持ってくる。持ち上げると縁が少しヌルヌルしていた。

(きちんと洗っているのか心配だよ)

そんな事を考えつつ当初の目的である味噌ラーメンをオーダーした。

店員は「あいよ! 味噌一丁!!!」と元気よく厨房にオーダーを通し、そのままエアコンのフィルターを外し始めた。あかりの席の前にあるエアコンのケースがバコバコ開けられ、取り外したフィルターが誰もいない席に並べられる。

(お客さんが居る前でエアコンのフィルター清掃を始めるとかさすがだよ……)

あかりはげんなりした表情を浮かべたが特に文句などは言わなかった。

食べている最中に埃を出したりは流石にしないだろうし、この店が“こういう店だ”というのを織り込み済みで来店しているのだ。今更細かい事など気にしないのである。

 

「らっしゃい。空いてる席に座って」

店員のそんなセリフで他のお客さんが来店した事にあかりは気が付いた。

一人はひょろっとした青年で、一人は中年くらいの女性、もう一人は太った中年リーマンだ。それぞれ別々の客のようで店内にまばらに散った。あかりを中心に前方がリーマン、左が女性、右が青年の配置だ。

(なんか急に囲まれちゃったよ)

 

貸きり状態から急にアウェイになったあかり。

頼んだ味噌ラーメンはまだ出て来ていない。

仕方がないのでぼんやりとスマホを眺めながら、他の客のオーダーに聞き耳を立てる事にした。

 

「醤油ラーメンと半チャーハンセット」

青年は腹ペコなのかセットメニューを注文した。

あかりは心の中でほくそ笑んだ。

(こけしの醤油はダメダメだよ。味噌を頼んだあかりの勝ちだね)

 

「麻婆豆腐定食ください」

女性は定食を注文したようだ。

(良いところを突くね。でも定食よりも麻婆丼の方が至高だよ。これもあかりの味噌ラーメンの勝ちだね)

 

「ソース焼きそばで」

リーマンの注文は予想の斜め上を行っていた。

(中華料理屋でソース焼きそばとかないわw 鉄板焼き屋とかにいけば良いのに)

 

完全に勝ち誇るあかり。そうこうしている内に注文した味噌ラーメンが席に来た。

遅れて来たルーキーに全部を持っていかれる

味噌ラーメンをすすっていると、他の客の注文した料理も順々に飛び出して来た。

醤油ラーメンと半チャーハンセットは過去に頼んだ経験もあり、特に驚くような要素はなかった。麻婆豆腐定食も麻婆丼を食べた事があるので同様に“勝手知ったる”という奴だった。

 

問題はソース焼きそばだ。流石のあかりもこの商品はオーダーした事がなかった。一体どんな料理が出て来るのか見当がつかない。当然、ソース焼きそばなる食べ物はわかる。だが、こけしの、中華料理屋のソース焼きそばがどれほどの物か全く想像がつかないのだ。

 

――うっ……!!! これは!?!?!?

 

料理がテーブルに並べられる前にあかりは気が付いた。

とてつもなく強烈な刺激が鼻を貫いてくる。焼けたソースの匂いだ。一瞬にして中華料理屋からお好み焼き屋にクラスチェンジしたのではないかと勘違いするようなソース臭が店内を覆い尽くした。いてつく波動ならぬソースの波動である。あかりは思わず味噌ラーメンをすする手を止めた。見ると左右にいる青年と女性も箸を止めている。

そんな中、店員によってリーマンの下にソース焼きそばが届けられた。それは立派なソース焼きそばだった。紅しょうがもこんもりと乗っている。思わず生唾を飲み込んだ。今、まさに、味噌ラーメンを食っている最中だというのに涎がこぼれたのだ。しゅ、しゅごいいいいいい、のである。

 

(くっ……。ソースの焼けた匂いがこんな攻撃力を持っているなんて!!!)

 

あかりは奥歯を噛みしめた。

そんなあかりの姿はお構いなしにリーマンはソース焼きそばを頬張る。

 

「ズル……ズルルルㇽゥウ!!! ハフッハフッ!」

 

旨そうだ! とてつもなく旨そうだ! 

ソース焼きそばが食べたい! 今すぐにソース焼きそばが食べたい!!!

あかりは目の前にある食べかけの味噌ラーメンを見つめた。

 

これを残してソース焼きそばをオーダーするか? いやいや、まてまて、そんな事をしたら明らかにリーマンに影響を受けて注文をしたような形ではないか! リーマンにだけは負けるわけにはいかない。それに中華料理屋のソース焼きそばなんて邪道なんだ。どうせ食べるならきちんとした鉄板屋などで食べた方が良い。そうだ、こけしの中でなら自分が注文した味噌ラーメンが一番の正解なんだ! それ以外に選択肢があるわけがない……。

 

心の中で自分に言い聞かせるあかり。

一度止まった箸はいつまでも動く気配を見せない。

そうこうしている間にもリーマンはソース焼きそばを口に運び続けている。

結果、後から来たリーマンの方があかりよりも早く食べ終わり、あかりよりも早く店を出た。

食べかけの味噌ラーメンを目の前に置き、リーマンの背中を見送るあかり。

心の中では一つの答えが出ていた。

 

 

 

そうだ。ぺヤング買って帰ろう